研究計画第二年度では、道徳実在論研究と障害学研究が研究の中心となった。前者については、研究計画に期したように、道徳実在論とその批判者たる準実在論や規範表出主義について収容文献を収集し議論整理に努めてきた。研究初年度以来自然主義的道徳実在論であるコーネル・リアリズムに着目してきたが、今年度に入り非自然主義的な道徳実在論(とりわけマクダゥエル)へと目を向けるようになった。とはいえ、道徳実在論研究はいまだ準備作業にとどまっているのが現状である。 障害学研究は、昨年研究計画を手直しして進めてきた優生学研究の一環である。本研究は進化倫理学についてのメタ倫理学的研究であるが、そのような本研究それ自体の倫理性を問う必要がある。あるいは進化倫理学が否応なく担ってしまう規範倫理的含みを等閑視することへの危惧の学術的表明でもある。以上の問題意識に基づいて、本年度は障害学の基礎文献収集と読み込みに着手した。具体的にはアマルティア・センの盟友であり、しかしセンとはやや異なった角度からケイパビリティ・アプローチを深めている政治哲学者ヌスバウムの議論を集中的に取り上げてきた。管見のかぎりヌスバウムは、ケアの倫理学に分類される道具立てを駆使した障害者の政治的主体性に最大限の配慮を払ったリベラリズム理論家だからである。本年度はこのヌスバウムの理論が障害学との連携できるかどうかを計測する発表を障害学会で行っている。研究発表を契機として障害学研究者との有意義な交流も始まったところである。 今年度の研究成果は上述の口頭発表一件のみである。研究最終年度においては、この二年間の準備作業を生かしながら、メタ倫理学に関する論文投稿・学会発表を行う予定である。
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