研究計画最終年度においては、二年間の研究成果に基づき、進化倫理学にふさわしいメタ倫理学が自然主義的道徳実在論であるかどうかに決着をつけるべく、これまで収集してきた研究文献を分析していった。さらに、研究計画第二年度より着手された障害学研究も平行して進めてきた。 まず、進化倫理学をメタ倫理学として位置づける研究について述べる。当初の研究計画では、コーネル・リアリズムとギバードの規範表出主義などとの比較対照が重要な論点として浮上すると思われた。というのも、両者ともに進化論研究の進展に、みずからの理論的洗練の材料を期待しているからである。しかし、残念ながらこの見込みは的外れに終わったといわざるをえない。というのも、進化生物学の知見を縦横に生かした進化倫理学を提唱する多くの有力な研究者は、自らの立場を非認知主義とみなしているからである。コーネル・リアリズムは自然主義かつ認知主義のメタ倫理学であるのだが、こちらの選択肢には進化倫理学陣営ではあまり注目されていない。したがって、研究の方向を転じて非認知主義メタ倫理学と進化倫理学との関係を再調査していったが、残念ながら論文として形をなすには至らなかった。 第二の障害学研究研究にはある程度の進展があった.というのも、欧米の障害学研究者が哲学・倫理学研究者と共同研究を進めており、今年度に入って論文集が刊行されはじめているという研究状況の改善があったからである。これらの仕事に多くを学びながら、障害学と倫理学を理論的につきあわせる作業は論文「リベラリズムと障害者」に結実したところである。
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