本研究では、最近登場したアップデイト論理の手法を言語行為のもたらす変化の研究に応用するが、その際、すでに本研究代表者のこれまでの研究で定式化されている指令行為の論理の、時間の流れを考慮したシステムへの拡張のための研究と、多様な種類の言語行為への拡張のための研究を並行して行い、最終年度までに段階的に全体を統合していくことが計画されている。このうち後者の研究においては、初年度である昨年度に研究が予定以上に順調に進み、指令と約束の両方を含む論理の定式化だけでなく、指令の論理と選好の変化を扱う論理の統合にも成功し、国際ワークショップおよび海外の出版社から刊行された論文集に発表した。今年度においては、この研究を発展させ制度的事実の理論との関連付けを与えた成果が、厳しい審査をパスして、オランダの権威ある国際学術雑誌Synthese誌に掲載されたほか、主張と譲歩の言語行為のもたらす変化を特徴づける論理と、その拡張、および言語行為研究の方法論について研究を進め、成果を国際ワークショップLENLS2008および第22回哲学世界会議(The XXII World Congress of Philosophy)において発表した。また前者の課題については、非決定論的な世界観を取り入れたSTIT論理を基盤論理として採用する可能性を研究したが、この論理に基づくHorty(2001)の義務論理が、義務の衝突を否定する効果をもつ公理を非常に基本的な仕様において組み込んでいることが判明し、相互に衝突することがありうる言語行為の分析の基盤とするには、かなり根本的な変更が必要であることが明らかになった。これは次年度以降の課題となる点である。
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