本研究においては、平成21年度までは、言語行為の論理的今析を行う際に、時間の流れを考慮したシステムへの拡張のための研究と、多様な種類のコミュニケーション行為への拡張のための研究を並行して行う予定になっている。このうち前者に関しては、平成20年度までの研究により、本研究への応用を検討したHorty(2001)らのSTIT(see to it that)理論には、義務様相を組み込む際に義務の衝突を否定する公理が採用さているため、義務の衝突を生み出しうる指令行為の効果の分析に利用するためには、意味論そのものの根本的な変更が必要であることがわかっている。平成21年度には、この点でどのような変更が可能か研究を開始し、指令発令者に相対化した可能世界間の序列付けを導入する方法を考案し検討を始めたところである。後者に関しては、義務を生み出す指令行為や約束行為、聞き手の選好に影響を及ぼす発語媒介行為だけでなく、命題へのコミットメントを生み出す主張行為、譲歩行為なども平成20年度までに扱えるようにかっており、さらに主張や譲歩を取り消す行為の分析を開始している。平成21年度には、この取り消し行為の効果の分析を継続した。すでに取り消し行為が、信念改訂の理論で研究されている信念体系の縮小とは異なったふるまいを見せること等が判明しているが、取り消し行為の効果は、取り消しを行う時点までの討論、談話の経過に依存するため、非常に複雑微妙であることも明らかになりつつある。この成果は国際会議で一部を発表した。
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