研究概要 |
本研究の課題は,ヒポクラテスに代表される前5世紀ギリシアの医学者たちの人間理解を,ギリシア人の人間観の展開の中に位置づけることによって,その意義を思想文化史的な観点に立って明らかにすることにあった. 本研究の第1年度にあたる平成19年度は,当該研究の第一段階として,ギリシア人たちのロゴス観に焦点をあて,言語と認識をめぐるギリシア人の関心が発展深化していく中で,医学者たちのロゴス認識がどのような役割をはたしたかということを,思想史的文脈に沿って明確にした. 以上の考察の結果として,つぎのことが明らかになった. 人間を「ロゴスをもつ動物」としてとらえるという立場は,ギリシア人の人間理解の方式を特長づけるものである.以上の見方は,現存資料をみるかぎり,ヘラクレイトスにさかのぼる.ヘラクレイトス以降,こうした見方は,ロゴスをもっぱら人間の理性的認識にかかわるものとして,感覚や経験的認識から区別するという方向に向かっていった.これに対して,医学思想においては,ロゴスはむしろ医学者たちの知覚や経験の構成因として,その形成に重要な役割をになっているように思われる.以上のことは,医学者たちがロゴスというものを経験科学としての医学の成立根拠として理解していたということを端的に示している.
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