研究概要 |
本研究の課題は, ヒポクラテスに代表される前5世紀ギリシアの医学者たちの人間理解をギリシア人の人間観の展開の中に位置づけることによって, その意義を広く思想文化史的観点に立って明らかにすることにあった. 本研究の第二年目にあたる平成20年度は, 期間の前半においては医学者たちの人間観を理解する上で重要な課題の一つである人間の生殖発生(ゲネシス)をめぐる問題に着目し, 医学者たちの人間という存在についての問題関心の所在とその特質を, 同時代の哲学者たちや思想家たちの見解を中心とする比較研究をとおして明らかにしてきた. その研究成果の一端については, 二篇の学術論文として発表している. 年度の後半は, 当該研究課題に密接に関連するテーマの一つとして, 前五世紀の医学者たちの人間理解がヘレニズム期の医学者たちの人間観の構築においてはたした役割の一端を明らかにする作業に着手し, その研究成果の一部をThe Hippocratic Tradition In Early Hellenistic Medicine「初期ヘレニズム医学におけるヒポクラテスの伝統」という題名で、イギリス・エクセター大学主催の研究セミナーにおいて発表した. 本年度末には, 当該研究課題にもとつく二年間の研究の中問成果を一応まとめた論考として「身体の発見史」と題する論文を執筆発表した。この論考は, 医学者たちの人間観の展開をとおして, 生理学的対象としての身体という概念の成立とその思想史的影響について考察したものであり, 2009年度の前半に刊行される予定である.
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