本研究は、脳科学や生物学、認知科学、ゲーム理論などから得られた知見を背景に広まりつつある道徳的自然主義を、「道徳の基礎づけ」という問題機制の中で批判的に検討することを通して、道徳を形而上学の視点から評価し直す試みである。もとより道徳の形而上学的な基礎づけはこれまでも数多く試みられてきたが、それらはいずれも、いわゆる「内在主義」のアポリアを解決することができないため、道徳の「外在主義」の側からはその独善性を批判されたり、道徳的自然主義からは「宙に浮いた空疎なお伽話」と揶揄されることもしばしばであった。本研究では、カントが指摘する「理性の弁証論的特性」、とりわけ「無制約者」を求めようとする理性の特質の「実践的場面」での意義を手がかりにして、既存の「内在主義」の視点を越え、多文化的状況にも開かれた「道徳の形而上学的再構築」を目指すものであり、それによって同時に「道徳の基礎づけ」の問題に対する最終的な答えを与えることを目的にしている。
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