『自然学』を中心としてアリストテレス哲学における行為主体性と合理性の統合の様子を解釈として提出とする3年間の研究であり、19年度はプラトン『ゴルギアス』とアリストテレス『自然学』の「仮定からの必然性」について解釈する実施計画である。 『自然学』研究では紀要論文「偶運の自然誌」を9月に出し、「アリストテレスの目的論」に関する、研究者のディスポジションと自然現象のディスポジションの出会いという新しいモデルを提出した。「仮定からの必然性」にかかわる第二巻九章解釈を、この一般路線のひとつの帰結として作成中である。 本年度、アリストテレスの合理性・主体性把握の基礎となる、かれにおける理性の問題を「能力」とからめて、12月発行の日本へーゲル学会誌論文「アリストテレスにおける理性と自己知」で論じた。大部分後天的に習得された諸能力は同定能力としてそのつどの人間的経験を支えているという『デ・アニマ』第三巻解釈であり、この解釈路線を今回、『デ・アニマ』能動理性論と『形而上学』第九巻十章の解釈上の難問を解くというかたちで、環境の中でふるまう人間の能力的知識の問題として表現した。この論文で表現が固まったので、本研究のメインテーマである『自然学』解釈も、自然観察力が広い意味での行為にも関係するという考え方のものとして、定式化可能となった。 プラトン『ゴルギアス』にみられる対話者ソクラテスの厳しいモラル(「不正をなすよりなされるほうを選ぶ」)が、研究目的の「統合」で想定したギリシア哲学の強い実践感覚と結びついていることを示すために、『ゴルギアス』の主張につながった『クリトン』の主張(「いかなる場合にも不正をなさない」)を『ソクラテスの弁明』から問題であった現実の政治過程の中で捉える作業を、まず行った。この成果を論文として執筆中で、近日中に発表する(20年9月発行紀要論文)。
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