『自然学』を中心にアリストテレス哲学における行為主体性と合理性の統合の様子を解釈として提出する3年間の研究であり、20年度は『自然学』の「仮定からの必然性」と「原因」概念に関する研究を進め、プラトン『ゴルギアス』の議論を心の哲学の観点から解明するという計画である。 第一に紀要に「アテナイの法廷とソクラテス」と題して論文を発表し、『ゴルギアス』解釈の前提として、ソクラテスの法廷弁論と規範遵守の考え方を検討した。置かれた状況の中での「縛り」に基づき感情も含めた認知能力を発揮し可能な最高の判断に頼るソクラテスの態度が、本計画の「行為主体性」と「合理性」にとって雛形になる。 第二に、計画に沿った『自然学』解釈論文をケンブリッジ大学セドレー教授に検討を加えていただき改良中である。21年度に成果として発表の予定。 第三に、『ニコマコス倫理学』研究を一部3月に「フィリア論序説」と題して発表した。よい行為の継続的反復により徳が形成されることに関し、アリストテレスが、その場合「自分を愛し」「自分の美を認める」ことができるようになるとして、若者本人の人生の問題として徳の勧めを行ったと論じた。愛の分析において「愛する」ことを他の心の働きと別にアリストテレスが倫理学の脈絡に置いた次第を解明し、広義の自然学的文脈の中から倫理学的で規範性を伴う議論が発生したと論じた。「自分を愛する」ことから「愛する」ことが可能になるという路線で、自然学的・心の哲学的な「自己知覚」による自意識の説明が倫理学的議論の鍵となることをも示した。 第四に、『ゴルギアス』解釈を含む徳と「心」の総論を、「いくつかの哲学的問題への「アレテー(徳)」の適切性に関する一考察」と題し、9月発行の紀要に発表する。コネクショニスト的理解において徳が「知的要因」・「力」でありえ、アリストテレス的「中庸・中間(メソテース)」でありえたことを解明する。
|