『自然学』を中心にアリストテレス哲学における行為主体性と合理性の統合の様子を解釈する3年間の研究であり、21度は(1)『ニコマコス倫理学』第2・3巻の徳論を幸福論の脈絡に位置づけ人間の主体性の解明ともなることを示し、(2)『自然学』解釈論文英語版をアリストテレス目的論の擁護として完成させ、(3)プラトン『ゴルギアス』の心の哲学をも明らかにするという計画である。 第一に紀要に(1)の面で「いくつかの哲学問題への「アレテー(徳)」の適切性に関する一考察」を発表し、『ニコマコス倫理学』第2巻6章を中心として「人柄の徳」を、その都度の行為を通じた感情の微調整という教育課題の問題として解釈した。この解釈により、アリストテレスとコネクショニズム的心の哲学との本質的親近性を示すことができ、行動と知性の改善り問題、教育の文化的な意味の問題にも関説した。関運して「フイリア論の文脈」をも発表しアリストテレスの愛と正義の徳の関係を明らかにした。 第二に(2)の面で、2010年3月印刷製本し多くの研究者に配布した研究成果報告書に、'The Concet of Chance and the Possibility of Aristotelian Teleology'を発表し、アリストテレスの目的論とディスポジション(「ヘクシス」ないし「デュナミス」)理解を関係付けた。 第三に、(3)の面で、同報告書に「ヴラストス「論駁法」再検討」を発表し、プラトン『ゴルギアス』におけるソクラテスの論敵論駁が、言葉による心への「作用」という側面に徹底的に照準を合わせた現実主義的なものであったこと、従って青年の道徳性や行動主体性、及び青年達が今後作る社会の健全な発展に向け、いかにかれらが自立できるかという関心のもとでの対話であったことを示した。これらはプラトン経てアリストテレスの全哲学においても保存されていた側面と私が信ずる要素である。
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