今年度は、本研究の最終年度であったが、当初の研究計画の実行・完結を計るというよりは、2011年より新たに刊行される予定の『アリストテレス全集』(岩波書店)に所収されることになる『分析論後書』の翻訳を依頼されたことにともない、昨年度後半に引き続き、エネルゲイア論と間接的に関わることになるアリストテレスの知識論について、形而上学的背景を検討し、翻訳と注解、そして解説の作業を中心に行った。 翻訳の「解説」として公刊する予定であるため、未だ公表しては居ないが、エネルゲイア論との関わりでの、アリストテレスの一つの注目すべき論点として、アリストテレスのいう「知識(エピステーメー)」、つまり「論証的な知識」が、エネルゲイアにあると位置づけられる「種」実体概念ではなく、むしろ可能態にあるとされる「類」を核として、構成されていることを確認したとは意義あることであると考えている。 論証的な知識において、それについて論証が、すなわち、知識が成立するのは「種」である場合に限らず、むしろ一般には「類」について成立する。このためには、「類」が、いわば「自然種」をなしていることが不可欠である。そこで、アリストテレスにおけるいわゆる「知識論」の課題は、論証的な知識が成立することになる「類」を、むしろ結果である「それが論証される」ということを「手がかり」にして見いだすということにある。 知識がこうしたあり方をしているということは、アリストテレスにおいては、少なくとも、伝統的には対比的に考えられてきた、いわゆる「帰納」と「演繹」の関係もまたダイアレクティカルな関係にあることを示唆するものであり、このことは、現代的なコンテクストにおいても、それ自体としても検討するに値する課題として浮かび上がってきた。 先に記した事情から、本年度の成果については公刊していないが、翻訳の暫定版については、連絡いただければ、配布する。(taka@1.chiba-u.ac.jp)
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