生物進化はその進比自体の関心を持つ生き物を生み出したが、そのように人間は自らの存在に関心を持つ動物である。その存在様式を人間が言葉を持つことから考察した。言葉を使うことではじめて可能になる多様な生き方をする人間は、その生き方をまた言葉で浮き彫りにしようとする存在なのである。しかし言葉を同時に人間の限界を与えることになる。人間は言葉の外には出られないのである。世界も人生も意味がないことさえ、言葉でしか押さえることができない。われわれ人間が言葉で、「がない、とする」以外ではないのである。こうした言葉の根本の働きから言葉が人間化機構を担っていることを分析した。 言葉について最も強い関心を持った哲学者、ヘラクレイトスの「同じ川に二度入れない」という、所謂万物流転説が、同じ川、違う川、といった同異の意味分析から川(そしてもの一般)の存在、非存在の意味機構を分析するものであることを見出した。つまり存在、「ある」とは、われわれ人間が「ある、とする」人間化機構を負ったものであった。そこからさまざまな反対対立についても同様であり、例えばわれわれの現実に飢餓があり、満腹があり、戦争があり、平和があるのも、われわれ人間がこれを「ある、とする」ことに根があった。そして飢餓と満腹、戦争と平和はそれぞれ反対対立して決して両立しないが、われわれの現実に出現するその反対のどちらか一方というモイラ運命の中で、その反対対立を貫く全体を問わせているものが古来から神と呼ばれる全体そのものだったのである。こうした考察をギリシア哲学セミナーで発表した。
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