本研究は、日本を含め広く東アジアに共通する思想である儒教をとりあげ、イデオロギーのフィルターを排除して、以下のような問題設定から総合的に検討し、とりわけ日本儒教の倫理学・倫理思想史的な意義を学問的客観的に位置づけることを意図する。 i<比較思想史的研究:空間的考察>東アジア儒教思想の中での普遍と特殊の研究。それぞれの社会構造に対応する思想のありかたを解明する。この成果の一部は、尾田幸雄監修『日本人の心の教育』「第五章庶民社会における心の教育」(官公庁資料編纂会、2008年、pp.215-261)において発表した。 ii<近代化論:時間的考察>近世・近代日本における儒教の位置。特に近代化においてどのように機能したかを解明する。その一環として、近世儒教の実態調査(主として上総道学の解明)を行なう。崎門研究の最大の問題は良質なテキストがないということであり、資料収集・翻刻・注釈という基礎作業が重要になる。われわれは、すでに定期的に上総道学研究会を設けて頻繁に研究を進めている。19年度は『墨水一滴』について作業を進め、同時に宮崎県高鍋藩・飫肥藩などの藩校調査をした。 iii<日本儒教の倫理学・倫理思想史的意義>日本儒教を、たんなる特殊としての倫理思想史として位置づけるのではではなく、そこから普遍としての倫理学の課題を読み取らなくてはならない。これに関連する成果は「近世日本の合理主義」において発表した。 ivその他台湾・国立政治大学徐翔生助教授による講演会(2008/2)の開催。盛況であり、改めて日本思想を考える契機となった。
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