研究概要 |
本年度の前半は、交付申請書で平成19年度の研究目的として挙げた「集団選択理論再考」まで踏み込むことはできなかったが、自然選択の単位問題に関する遺伝子選択主義の妥当性の検討に関する、等しく重要なケーススタディとして、ヘテロ接合子優越(超優性)の事例を研究し、「単一対立遺伝子の視点からの記述は2倍体遺伝子型の視点からの記述と少なくとも等価である」という遺伝子選択主義者(Sterelny, Kitcher, Watersなど)のテーゼが、因果性の記述の観点からは成立しえないものであることを示した。その成果は、ISHPSSB2007(7月、英国Exeter)での一般発表、日本進化学会(8月、京都大)でのワークショップ報告という形で、国内外で公表した。現在その成果を一部として盛り込んだ博士論文を執筆中である。本年度の後半は一転、交付申請書では平成20年度のテーマとして挙げておいた「社会生物学/進化心理学における人間行動の適応主義的説明の妥当性の吟味」に重点を移した。その結果として、両理論における論証構造は、根本的に重要なところで、論証されない推測的前提に依存していることを示し、その成果を、科学基礎論学会秋の研究集会(10月、慶応大)におけるワークショップ報告、そしてそれを基に執筆した基礎論学会の欧文誌(Annals)寄稿論文として、公表した。特に寄稿論文の方では、進化心理学における「進化的機能分析」と呼ばれる手法(Barkow, Cosmides, Tooby)を取り上げ、そこに見られる進化的適応環境(EEA)における適応的問題の同定、ならびに現代人の心は太古の時代の適応的産物であるという作業仮説に内在している固有の方法論的困難を指摘した。なお、本年度の4月に、昨年の10月に北大で開催された科学哲学会大会におけるワークショップ「生物学の哲学の現状と展望」のオーガナイザーとしての報告論文が、『科学哲学40-1』に掲載された。
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