本研究課題の第三年度においては、ルサンチマン概念の確定に関連しては<「内的世界」の冒険者たち>の論攷を著した。フリードリッヒ・ニーチェやマックス・シェーラーといったルサンチマン概念の主要な思想家だけでなく、ルートヴィヒ・フォイエルバッハやオットー・フリードリッヒ・ボルノーら広範な哲学者・思想家群に目を向け、ルサンチマン概念のさらなる理解を深めた。また、朝鮮半島におけるルサンチマン研究として、平成20年度は、恨思想と経済活動の結びつきに関して口頭発表を行うまで研究を進めるに至ったが、引き続き平成21年度は、第一点はルサンチマン思想と儒教思想との結びつき、第二点は長きにわたる外国勢力による支配との結びつきという観点からルサンチマン研究を推進した。その際、恨思想の表れを政治構造、社会構造、文化構造、宗教領域において分析した。たとえば、政治構造においては、権力者と非権力者間に、社会構造においては、富める者と貧しき者の間や両班・中人・常民・賤民といった身分制度において恨思想の現れをみた。さらに、人々の言動を道徳に還元して評価する道徳志向性との関わりで恨思想をとらえ、とりわけ朝鮮半島に受容された儒教思想の特徴である理気二元論から分析を進めた。第一点ルサンチマン思想と儒教思想との結びつきについては、「朝鮮半島における儒教受容」の論文を著した。第二点外国勢力による支配との結びつきという観点からのルサンチマン研究については、「朝鮮半島における恨思想とルサンチマン」を著した。中国文化圏におけるルサンチマン概念を考究するにあたっては、「報怨以徳の思想」の典拠となる『老子』及び春秋戦国期の儒教思想を通覧した。それとともに、江南地方(上海、蘇州地域)に赴き資料収集を行った。
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