本研究の目的は、プラトンのミュートス(神話)が持つ多層的な機能と意味を、その個別的側面と普遍的側面に注目しつつ、有機的に解明することであり、三つの研究レベル((1)各対話篇の文脈に即した、ミュートスの機能と意味の分析、(2)ミュートスが扱う二大テーマに関する諸問題の解明、(3)プラトン哲学全体におけるミュートスの諸機能と意味の総合的な解明)を有機的に連携させながら、ミュートスという独特の表現方式がプラトン哲学において持つ機能とその意味を、総合的に解明していくことにある。 初年度である平成19年度は、必要な研究文献資料の収集を行ない、レベル1(各対話篇の文脈に即した、ミュートスの機能と意味の分析)の基礎的研究を遂行するとともに、各対話篇の個別的文脈の中でのミュートスの機能を、幾つかの作品を素材にして分析した。具体的には、研究計画で挙げたテーマの中から、(1)『ゴルギアス』『プロタゴラス』などの初期対話篇の弁論術や快楽主義の批判において、ミュートスが果たしている役割の分析、(2)『国家』におけるイデア論、魂の三部分説等の哲学的問題を巡る議論、および、正しい者が幸福であるという倫理的立場とミュートスの連関の考察、詩人追放論とミュートスとの関係などの問題を具体的に考察した。これらの研究成果の一部は、3本の論文にまとめることができた。こうした考察によって、プラトンの哲学的考察において、ミュートスが、従来考えられていた以上に重要な役割を果たしており、その内容を詳しく分析することが、プラトン哲学の詳細をより明確にすることに有益であることが判明した。
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