本研究の第一の目的は、『トマス・アクィナスの人間論-個としての人間の超越性-』(知泉書館、平成17年1月)で明らかにしたところの、人間存在そのものの「超越性」から出発して、「共同善への運動」という観点からトマスの共同体論が有する現代的な意義を明らかにし、最終的には出版という仕方での提示を目指していた。平成20年度の直接的な成果としては、「共同体と共同善-トマス・アクィナスの共同体論研究-」という神戸大学経済学部への博士号請求論文に基づいて、公開審査(最終試験)が20年8月4日に行なわれ、無事合格することができた点であり、また、この学位請求論文を補完した拙著『共同体と共同善-トマス・アクィナスの共同体論研究-』が、10月に知泉書館から出版された点である。そして、10月15日に開かれた神戸大学経済学部の教授会で、この拙著に関しても審査され、経済学博士の学位の授与が正式に決定された。拙著の出版と博士号の授与は、京都大学での文学博士号の授与とそれに基づく最初の拙著の出版から、実質的に3年ほどで到達することができた大きな成果である。12月6日、神戸大学で行なった研究発表では、本書を献呈させていただいた恩師である野尻武敏神戸大学名誉教授から、「トマスが今生きていたらどう答えるか」という観点から研究を進めるようにという暖かい励ましの言葉をいただいた。今後もこの言葉を指針として、研究を進めていきたい。また、『鹿児島純心女子短期大学研究紀要』第39号に、「永遠法と自然法-トマス・アクィナスにおける自然法の超越性について-」と「対神徳の可能性-トマス・アクィナスにおける徳の区別について-」という二本の論文が掲載された。第二の研究目的である、拙著『トマス・アクィナスの人間論-個としての人間の超越性-』の英訳に関しては、あまり時間をさくことができなかった。第三の研究目的である「トマス・アクィナスの幸福論研究」というさらなる博士論文に関しては、全体の構想をまとめることができた。
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