「蓋然性の論理学」とは、起こりうる事象の総数に対する着目事象が起こる比率という数学的な蓋然性(確率)の定理に基づいて、仮説が証拠によって支持される度合いを評価する論理学である。I.ハッキングによれば、その哲学的基礎はライプニッツの「可能的なものは現実存在を要求する」という思想にある。ライプニッツによれば、蓋然性はある事象が起こる「可能性の度合い」を意味し、事象の「完全性の度合い」に応じて規定される。しかし事象の完全性の度合いが、「無矛盾性」に基づく事象の「両立可能性」によって規定される限り、この思想には決定論の疑惑が払拭できないという難点もある。カントは前批判期において、「蓋然性の論理学」を「実践的論理学」の一部分と見なしていた。実践的論理学とは、理論的論理学で明らかにされた概念、判断、推理の規則を、実際の認識において真理の発見や判定に適用する仕方について論じる論理学の部門である。しかしこの論理学は概念や判断が適用される具体的対象を有するオルガノンであった。「一般論理学はカノンである」という批判哲学の立場の確立によって、カントは実践的論理学の一部分としての「蓋然性の論理学」を否定するに至ったと考えられる。その一方でカントは数学における蓋然性の測定可能性を認め、これを独自の超越論的原則によって基礎づけた。すなわち「可能性の度合い」としての蓋然性は感性的直観に与えられる外延量として悟性によって規定される。その必然性は無矛盾性に基づく絶対的必然性ではなく、経験に基づく「仮定的必然性」である。したがってカントの認識論的な基礎づけは、ライプニッツの思想に見られる決定論的な困難を緩和していると言えるであろう。
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