「蓋然性の論理学」の哲学的基礎の問題について、今年度はトマジウス、リュテガィー、ホフマン、クルージウスといった反ヴォルフ学派の思想の研究を行った。この学派の特徴は学問的方法として三段論法に基づく論証的方法を重視したヴォルラ学派に対し、論理学を経験的認識に適用することでその実践的使用を重視した点にある。とりわけクルージウスはこの学派の思想を体系化し、論証的方法に対する「蓋然性の方法」を確立した点に功績があった。蓋然性の方法とはその反対が矛盾を含まない命題の可能性を経験的に獲得された証拠に基づいて、反対命題の可能性と比較考量する方法であり、クルージウスは形式論理学に倣って、その推理方法について6つの基本形式を確立し、この形式に基づいて同数の「前提命題」を導出した。確かにこの方法はライプニッツの構想とは異なり、仮説の可能性を数学的な確率の定理に基づいて推理するものではなかったが、数学的に測定不可能な異種的な証拠をも比較考量する点に特徴があった。クルージウスはこの方法を形而上学にも適用し、とりわけ自然神学において、いわゆる神の「デザイン論証」と言われる目的論的証明をこの方法を用いて展開した。この証明において前提とされるのは「最も少ないことが根拠なしに想定される命題を真と見なすことが理性に適っている」という原則である。クルージウスによれば、自然の合目的的秩序の原因としての神の存在証明は、その反対が否定されない限り論証的・幾何学的確実性を持つことはできないが、「無限量の蓋然性」によって証明可能であるがゆえに、こうした確実性に匹敵する「道徳的確実性」を有する。この方法はテザイン論証を充足理由律に基づいて行ったヴォルフと対照的であるが、ライプニッツやヴォルフに見いだされた決定論的な困難がこの方法によって緩和されているかどうかについては目下のところ研究の途上であり、成果がまとまり次第論文を発表する予定である。
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