山東を舞台とした信仰では、泰山信仰が最も普遍的ではある。主神は東嶽帝君であるが、羅祖教の流れにある黄天道などの新興宗門では、東嶽帝君に陪祀される夫人の泰山娘々を神格とした経典宝巻を作成している。明刊本としては、「天仙聖母源流泰山宝巻」西大乗教の萬暦刊「霊応泰山娘娘宝巻」(悟空編)の2種が伝わる。沢田瑞穂氏は後者で、両本を代表させるが、実際は両者の内容は異なる。前者の断簡を所蔵する一方、後者は『続刻破邪詳弁』巻1に邪教の一つとして著録され、複印本もある。古くから女神としては観音がいて、「香山宝巻」が作られてその出身の霊験談を記す。泰山娘宝巻も観音出身伝に倣って、泰山娘々の霊験談を作り出したと見える。同じ頃、やはり山東を舞台とする孟姜女宝巻も作られている。女性神の宝巻が目立つのは、教門の担い手に女性教祖や信者が多かったことと関係しよう。
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