本研究は、「永楽三大全」中の各「大全」について、それぞれが基づいた藍本の問題や引用文献の種類・内容といった根本的な問題について基礎的な考察を行うことを通じて、「三大全」の特質を明らかにすることを主たる目的としている。本年度の研究計画は、「三大全」中の『詩伝大全』と『春秋大全』の分析であった。当初の計画通り、『四庫全書』本(『詩伝大全』:通行本、『春秋大全』:内府蔵本)を用い、さらに、両「大全」の藍本とされる著作(汪克寛撰『春秋胡伝纂疏』、劉瑾撰『詩伝通釈』)についても、『四庫全書』本を用いて研究を行った。しかしながら、研究開始後の6月下旬に上海図書館に文献調査に行き種々の文献を調査する内に、現今、明版の経学著作はマイクロフイルム・CD等によって相当数の文献の閲覧が容易となっており、また、影印本の出版が急速に進展し、その複写を手に入れることもかなり容易であることを痛感した。そこで、研究計画を若干修正し、「大全」の研究の底本にも明版を用いるべきであるという結論に至った。そして、元来は最終年に実施する予定であった版本研究の一部を今年度の研究と同時進行で進め、再検討した結果、来年度以降は、国立国会図書館に蔵される内府刊本を底本に研究を進めることとした。ただ、今年度は当初の計画通り、『四庫全書』本により『詩伝大全』『春秋大全』の分析を行い、ともに当初の計画はほぼ達成した。但し、来年度以降に、明版の『詩伝大全』『春秋大全』の内容も改めて確認する予定である。 本年度に得られた主な知見については、来年度以降の研究成果と併せたかたちで発表する予定である。なお、本研究は「永楽三大全」の基礎的考察を通じて、明永楽年間以降の中国はもとより東アジア儒教文化圏の学術・思想の特質の把握を目指していることから、研究の過程で新たに見いだした発展的課題があれば、随時その研究にも手を広げることとしている。今年度は、その一環として、「四書」学をめぐって、王守仁の「大学古本序」執筆の思想的背景について考察し、国際会議において報告を行った(「王守仁之白鹿洞書院石刻發微」)。
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