今年の基礎的な研究として、伝教大師最澄の大乗戒受容の過程を中国禅宗の大乗戒思想との関連で継続して追跡した日本の最澄にも大乗戒、『梵網経』菩薩戒の特異な解釈が作用しているという仮説の許、入唐した最澄が当時の中国における大乗戒運動の余波と、擡頭する南宗禅の運動を正面から受領したという視点で問題を追跡しつつあるが、その点からの解明は難行しているのが実際である。ただ、若い研究者の研究協力も得て中国仏教における大乗戒、菩薩戒思想の展開を初期の禅宗文献の内に分析するという作業を通じ、中国禅宗系の大乗戒の展開に一定の手がかりを得た。また一方、定例である中国語録研究会では研究参加者の分担研究を仰ぎ、継続中の神会和尚『南陽和上定是非論』の注釈的研究を一定程度進めることが出来た。同『神会語録』同様、禅宗の特異な戒の理解を解明する上で手がかりを得られると考えている。また今年度も、大韓民国ソウルの東国大学校仏教大学や全州円光大学を訪問し、仏教研究者と交流できた。執筆できた論文としては「道元の身体と言語」という若干原理的な内容の論文を『禅文化研究所紀要』に執筆した(夏に刊行予定である)。仏教修行と行為において戒と戒体のもつ特殊な意味について若干の考察を試みた。
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