今年度は、まず最初の段階として、インド古典期の文法学者であり哲学者であったバルトリハリの『文章単語論』の第二巻について、その写本の写真に基づく校訂テキストの作成を目指した。出来るだけ鮮明な画像を得るために画像の処理を行い、それに基づいて文字転写の作業を行うという手順で、全体の三分の一ほどについて、校訂テキストと呼びうるものを作成し終えた。このテキストデータについて、次にXML文書化のためのタグ付けを行った。今回の研究は、テキストの分析、特に思想史的観点からの分析が目的であるから、タグの項目については、文法学・言語哲学における重要な概念をもっぱら対象とした。ただし、ここで試みたのは、エディタによるテキストデータに対するタグ付けによるXML文書化であって、それ以上の成果が得られた訳ではない。実際には、旧来通りの写本に基づいて校訂テキストを作り、異読をあげ、またそれを読解し、翻訳し、注釈を作るという作業の方が、バルトリハリの「文章意味論」の特質を明らかにするためにはやはり重要であった。この研究成果については、今後国際学会などで発表する。ただし、コンピュータを使ったテキストの分析に新たな方向が見えなかったわけではない。これまで文字データをもとにXML文書を作成するという方法で行ってきた作業が、写本そのものの画像を対象にして、それを直に分析し、さらにそれにノートをつけたり、翻訳を付けたり出来るというプログラムの開発が現在なされているということを、ごく最近知ったところである。この方法について、今後出来る限りの情報を得て、本申請者の研究に利用することが可能かどうかを探りたいと考えている。
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