【1.チベット訳校訂作業に関する研究実績】 『金光明経』に含まれる諸章のうち、「善生王品第二十一(Susambhavaparivarta)」に対して、Peking版(平成20年度補助金によって入手済。デジタル・アーカイブ化済)、Narthang版(平成19年度補助金によって入手済。デジタル・アーカイブ化済)、Stog Palace写本(入手済。デジタル・アーカイブ化済)、Tokvo写本(平成20年度補助金によって入手済み。デジタル・アーカイブ化途中)という、チベット訳校訂作業に際しての必須資料を中心にNobel[1944]とも比較校合を行いながら校訂作業を進めた。その結果、1940年代以降停滞していた『金光明経』のテクスト研究に進展をもたらした。 【2.<仮説>の検証を通した、インド宗教文化理解・インド仏教実像理解に関する研究実績】 『金光明経』のうち、世俗的利益を中心に説く連続した六章(<諸天に関する五品>および「王法正論品」)に後続する「善生王品」に焦点を当て、すでに提示している、インド宗教文化理解・インド仏教実像理解に関わる<仮説>の検証を行った。その結果、「伝法や修行という自らの目的を達成するために『金光明経』の制作者は、『金光明経』・法師・現前サンガに対する布施による無上菩提・法身獲得を説く「善生王品」を通じ、出世間的利益を求める人人からも経済的援助を得ようと試みた」という結論を得たことで、<仮説>の有効性が一層確かめられ、その結果、インド宗教文化・インド仏教の実像理解に資することができた。
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