研究概要 |
本年度は,8月から9月にかけてトゥルファンとクチャ地域の,禅観に使われた可能性のある石窟の調査を行った.トゥルファン地域では,トヨク・バイシハル・ベゼクリク・センギム・ヤルホトの各石窟を訪れ,赤外線・可視光の双方で写真撮影を行った他,詳細な觀察を行い,ノートを作成した.このなかでも,ヤルホトの第4窟は,側室を具えるほか光明を放つ禅観僧の壁画もあり,今後注意すべき石窟の一つである.クチャ地域では,キジル・クムトラ・スバシの各石窟を訪れ,同様の調査を行った.特に,従来殆ど報告されていないスバシ石窟を実見できたことは有意義であった.特に第5窟は規模も大きく,多くの側室を具えるほか禅観僧の壁画も残り,注目すべき石窟である. 今回の調査においては,壁画の内容以外に石窟の構造にも注意を払い,実用的な目的に使われた可能性があるかどうかを重点的に観察した.これらの成果については,現在整理・検討中であり,今後機会をみて発表していきたいと考えている. なお,11月にトロント大学で行われた学会において,今回の調査の成果をふまえた発表を行った.従来主室の周囲に幾つかの側屋を具えた石窟は,ほぼ自動的に「禅観窟」と見なされることが多かったのであるが,スバシ石窟の例などをみると,必ずしもそうは言い切れないように思われる.これらの石窟の幾つかのものは,禅観の実践よりはむしろ何らかの儀式的・象徴的目的のために使われていた可能性も高いように思われ,その用途については慎重な検討が求められるであろう.
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