研究概要 |
8月末〜9月上旬に,ロンドンの大英博物館とパリのギメ美術館の調査ならびに写真撮影を行った.その結果,パリ所蔵の観経変相の一部に,ロンドン所蔵の報恩経変相から誤って取り込まれたと思われる要索のあることを見出した.このことは,観経変相の変遷の観察に基づいて,画師達が経典ではなく先行の作品を参照しつつ絵を描いていたと主張したKristi所収拙稿での論旨に符合する所見である.この点に関しては,11月に創価大学で開かれたシンポジウムで発表した. 10月にトゥルファンで行われた学会に参加し,小側室を伴い通常禅定窟とみなされている石窟のすべてが禅定の実践に用いられたとは,必ずしも断定できないという趣旨の発表を行った,トヨク石窟が禅観の実践に用いられたという私の従来の主張を変更するものではないが,この結論を安易に他地域の石窟に適用することには,慎重でなければならない.学会の前後に,センギムアグズ・トヨク・バイシハルの調査と写真撮影を行った. 3月にはテルアビブ大学で行われたシンポジウムに参加して,『観仏三昧海経』に見られる陰馬蔵相をめぐる奇妙な説話を分析し,中央アジアの禅観実践者たちがインド説話の素材をどのように変質させて独自の説話を形成していったのかを,文献資料と美術資料に基づきつつ論じた.
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