本研究計画の初年度にあたる平成19年度は、サキャパンディタの著作に関する15世紀の2つの木版印刷(サキャ古版とコンカルワ版)の木版プロジェクト解明を目的として、チベットの寺院史・地方史・王統史・伝記などの歴史文献に基づき、サキャ古版とコンカルワ版に関する、人名・場所・学派・年代・著書をキーワードとした木版情報を蒐集し、2つの木版計画における施主・出版責任者・各作業担当者(資材調達・写本蒐集・印刷用原本作成・印刷用原本の浄書・刻字・校閲などの担当者)の役割等を検討した。以上の調査結果を分析するため、今回の調査研究では、15世紀にチベットで木版印刷が開始される以前、既にモンゴルで木版印刷されていたチベット語テキストの影響の考察、並びに18世紀の『デルゲ版サキャ派全書』の木版プロジェクトとの比較対照によって研究を進めた。 今回の調査を通じて、チベットにおける15世紀の木版印刷は、モンゴル・中国で印刷されたチベット語テキスト等の影響を受けつつ、チベット国内での木版テキストへの需要の高まりに呼応する形で蘭版されたと判断するための基礎資料を蒐集することができた。さらに、15世紀の木版印刷プロジェクトにおける施主・出版責任者・主任校閲者等のプロジェクト構成員、並びに印刷プロジェクトの作業工程・印刷施設等の概要を把握することができ、チベット文化史研究における木版印刷研究の意義を確認することができた。以上の研究成果は、2007年11月の第17回仏教文化学会で口頭発表を行うと共に、『東アジア文化交渉研究』(創刊号、2008年3月刊行予定)に論文発表した。
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