研究計画の最終年度である平成21年度は、それまでの調査結果を総括すべく研究を進めた。具体的には、それまでの予備的作業を基に、本年度は、サキャ派関連の木版印刷プロジェクトの調査結果をチベット出版文化研究といった観点から考察した。特に、中国の出版文化との関わり、サキャ派とナルタン寺の人的交流、木版文献の需要と供給、木版印刷完成までのプロセス(施主の発願・資材調達・写本蒐集・印刷用原本作成・印刷用原本の浄書・刻字・校閲)、ラダック地方における宣教師の活動などの観点から、チベット出版文化史に関する総合的研究を進めた。 今回の調査研究を通じて、チベットと中国の文化交渉および中央チベットにおけるサキャ派の宗教活動という観点から、チベットの木版計画を捉えることの重要性が明らかになった。また、チベットにおける木版印刷が、モンゴル・中国を始めとする周辺諸国からどのような文化的影響を受けて成立したかを考察するための基礎資料を蒐集することができた。以上の研究成果は、第53回智山教学大会(2009年5月)、第19回仏教文化学会(2009年11月)、国際シンポジウム「文化交渉としての宣教布教-近代以降の新しい趨勢」(2010年1月)で口頭発表を行うと共に、『関西大学東西学術研究紀要』(第43輯、2010年4月)『新アジア仏教史9須弥山の仏教世界』(佼成出版社、2010年4月)に論文発表した。
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