平成19年度は、『マハーボーディヴィアンサ』のシンハラ語資料の入手、第1章の解読を進めた。第1章では序文に続き、上座仏教においても大乗的な汎仏思想につながる「スメーダ・カター」(釈迦仏が過去生において最初にブッダとなる決意をし、その決意が叶うことをディーパンカラ・ブッダにより予言される物語)があり、そのあとに、その他の過去仏の概要に続き、ブッダの成道までが語られるので、最初に「スメーダ・カター」の解読を行い、研究成果を学会、および論文として発表した。またその準備として『ブッダヴァンサ・アッタカター』中の「スメーダ・カター」を訳出し、通常、上座仏教における「スメーダ・カター」の代表と見做される『ジャータカ・ニダーナカター』との比較検討を行った。資料収集については、ドイツ・ゲッティンゲン大学において、シンハラ語の注釈書類、シンハラ語による『シーハラ・ボーディヴァンサヤ』の古い刊本を入手できた。こられの研究から、『マハーボーディヴァンサ』が、単に過去の資料の焼き直しではなく、独自の伝承に基づいていることや、特にに大乗的な影響が見られることが確認できた。また、研究協力者である大谷大学の清水洋平氏ならびにドイツ・ハレ大学のKieffer-pulz氏から、当該資料の他の章について、それぞれの立場から研究支援をいただいた。スリランカにも現地調査に赴いたが、当地の一般仏教徒の間で、古い伝承が非常によく伝えられていること、またパーリ注釈文献の主要舞台となっている古代都市やその他の遺跡の考古学的調査が、文献解読にとって、不可欠であることが確認できた。また、シンハラ語の『シーハラ・ボーディヴァンサヤ』をローマ字化し、HPに順次公開している。
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