本研究の第一の目的は、公開されたエディット・シュタインの手紙をめぐるカトリックとユダヤ教の論争の内容と経緯を広範囲において調査することであり、本年度は件の論争に関する2003年2月以降の各種メディアの反響を調査した。この論争の論点の一つは、彼女がピオ十一世に送った嘆願の手紙が、1937年の回勅の公布を促したか否かという点にあることが知られている。この論点に関するカトリックとユダヤ教の双方で論じられる内容を正しく理解し、考察の対象とするためには、同回勅に関わる論争の特性を、戦後たびたび繰り返されるピオ十二世に対するユダヤ教諸団体からの非難と比較しつつ明らかにする必要があり、そのための資料収集と翻訳、読解に多くの時間を割いた。 本研究の第二の目的は、公開された手紙に関連するエディット・シュタインの文献研究を通して、手紙を記した内的動機を検証することである。本年度は検証に先立つ資料収集に着手するとともに、実際にエディット・シュタインが生まれ生活し亡くなった場所を訪ねた。エディットが晩年生活したエヒト(オランダ)にあるエディット・シュタインミュージアム、プロツワフ(ポーランド)の生家(現在は改修され文化交流館となっている)では、現地スタッフと情報交換を行い、今後研究を進める上での連絡体制を構築できた。またアウシュヴィッツ強制収容所跡地(ポーランド)では、エディット・シュタインらが到着した1942年8月当時の鉄道引き込み線位地について新しい知見を得た。本年度は主に資料収集・調査と読解に重点を置き、成果の公表は論文一件であった。
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