本年度は、まず、占領初期の沖縄おいいて、東アジアの国際情勢や戦後復興をめぐる政治状況のなかで沖縄のキリスト者が非キリスト教の個人・団体(沖縄諮詢会・沖縄民政府等の行政組織や政党・政治団体)とどのような関わりを持ち、活動したかを実際の史料(仲里朝章やその他のキリスト教関係者が残した第一次史料と先述の行政・政党等の関係者の手記や評伝)をもとに再構成した。その結果、1940年代後半の沖縄でのキリスト教会・信徒・伝道者の思考と行動がほぼ解明された。 また、本年度は日本本土(横浜・長崎)にプロテスタントの宣教師が来日して150周年にあたり、本土のキリスト教界では盛大な記念式典が行われた。一方、沖縄ではそれらの宣教師よりも早く1846年に琉球王国に来航したベッテルハイムの沖縄伝道についての再検証が行われた。これら日本本土と沖縄との意見のやりとりをふまえて上で、本年度はベッテルハイムの琉球伝道がその後の沖縄社会でどのように顕彰されたかについて史料の発掘・分析や聞き取りを行い、意味づけを行った。これにより沖縄のキリスト教の源流とキリスト者が持っているアイデンティティの細部に踏み込んで考察ができるようになった。また、ある地域でのキリスト教の展開は必ずしもファースト・コンタクトがその性質を決定する要因になっているわけではなく、新しいキリスト教が地域社会に何度も到来し、そこに重層的なキリスト教の伝道が形成されることが分かった。それらのことから、「キリスト教交流史」の概念や方法論について、本年度は見識を深めることができ、来年度にその集大成をしたいと考えている。 最後に、長年ご家族によって管理されてきた仲里朝章が残した文庫が沖縄キリスト教学院大学図書館に移管され、「仲里朝章文庫」として公開されることになった。この件について、ご家族と同大学との仲介を行い、史料の保存と公開について提言を行った。
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