平成19年度には、二度にわたるフランスへの渡航により、現地の図書館などに赴く以外には現在では入手困難な文献や資料を集中的に集めることができた。そのうち特に、1/1960年代に存在したL'inconscient誌に掲載された一連の重要な論文(精神分析とユダヤ思想、精神分析の宗教論などに関係するもの)、および2/2000年以降のフランス精神分析の方向性を示す資料(今日のラカン派精神分析が「現代の啓蒙」と呼ぶ一連の議論や活動の記録)は、少なくともこれだけまとまった形では、我が国では報告者のもとにしか存在しないだろう。これらの資料のデータ化、およびそれらの読解は、平成19年度中からすでに進められている。他方、報告者が平成19年度に取り組んだ本研究のサブ・テーマのうち、「精神分析と啓蒙思想をつなぐ系譜」についての研究、および、「フロイトの「死の欲動」概念の現代的受容」にかかわる研究の成果の一部は、1/本年(平成20年)4月に雑誌『思想』に掲載された論文「フロイトとサド」として、また、2/平成19年11月に京都大学人文科学研究所共同研究班「啓蒙の運命-系譜学の試み」における発表「ラカンの「カントとサド」をめぐる三つの思想史」として、公表された。これらの成果、とりわけ前者の論文には、従来の日本の精神分析研究とは一線を画する独創的なテーゼが含まれており、報告者の今後の研究に向けての、さらには我が国の精神分析研究の未来に向けての、重要な一歩としての意義をもっと考えられる。
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