最終年度にあたる平成21年度は、年度当初に計画した著作構想を進める形で研究に従事した。 まず、平成20年12月の学会発表「シンボルとアレゴリーの交叉」の研究をさらに進め、ベンヤミンにおける神話論を、エルンスト・カッシーラーとパウル・ティリッヒとの比較から描きだした。本稿の意義は、ベンヤミンの神話論を歴史哲学や言語哲学の関連から究明し、モダニティにおける聖なるもののベンヤミン的な経験を叙述した点にある。本稿は未発表で、構想されている著作の一章として発表する。 次に、上の論考の枠組みとしたカッシーラーとティリッヒに関して「ティリッヒとカッシーラー-宗教の臨界をめぐって」と題する研究成果を学会にて発表した。本稿の意義は、ティリッヒとカッシーラーにおける文化と宗教の位置づけを比較検討して、両者を西洋的モダニティにおける宗教構想の二典型として描き出した点にある。また、ジンメルの宗教論とティリッヒの宗教概念の関係の親和性を明らかにし、これまでの研究と合わせることにより、ジンメル・ティリッヒ・カッシーラーにおける「聖なるもの」の言説の関連性を究明したことになる。なお本研究は改稿の上、『日本の神学』50号(2010年)に掲載されることが決定している。 最後に、本研究課題に関連する著作構想の一環として、「ディルタイと和辻-文化史のなかの宗教」と題する研究を行った。本研究は、ドイツ思想史における「聖なるもの」の言説分析を土台にしつつ、上記三名のドイツ思想に先行するディルタイと、その影響を受けた和辻哲郎における宗教の位置づけの解月を目指したものである。本稿の意義は、ディルタイ精神科学論における宗教的なものの優位性と、その国民国家論との関連を明らかにしたことであり、また和辻における文化論を象徴論的な宗教哲学として読みうる可能性を提起したところにある。本稿は、『ディルタイ研究』21号(2010/2011年)に掲載されることが決定している。
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