今年度はまず、リンゲルブルムとカツェネルソンのイディッシュ語資料と作品を読み込むことから研究をはじめ、とくにカツェネルソンがワルシャワ・ゲットーで書き上げた長大な作品「ラジンのラビ」の翻訳を進めた。大きな作品のため、翻訳は3分の1程度しか終えられなかったが、作品に踏み込む準備は整えられたと思う。 また、予定どおり、8月下旬から9月上旬にかけてニューヨークに滞在し、予定どおりユダヤ文化センター(YIVO)およびニューヨーク大学の図書館、さらにはニューヨーク州立図書館において、ワルシャワ・ゲットー、とくにイツバク・カツェネルソンとイツハク・ツケルマンについての、貴重な文献と資料を収集することができた。また、ニューヨークのイディッシュ文献を中心にした古書店で、入手しがたいイディッシュの文学叢書を購入できたのは、予想外の収穫だった。 そのなかで、ニューヨーク大学の図書館では、イディッシュ語劇「エステル」の原資料にもとづいて、「ドナドナ」がそのイディッシュ語劇の挿入歌としてやはり用いられていたことを確認することができた。第1幕と第2幕で主人公エステルがせりふのあいまに歌うという設定だったようだ。 そして、これまでの研究成果を踏まえて、論文「記憶のエコノミーに抗して--映画『ショアー』とワルシャワ・ゲットー」を執筆し、共著『記憶表現論』の一部として2009年3月に刊行することができた。
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