前年度までの研究成果を踏まえて、今年度は本研究の最終年度として、以下の研究実績をあげることができた。 (1)イツハク・カツェネルソンがワルシャワ・ゲットーのただなかで書いたイディッシュ語作品、「ヘイシェレの死の記録」、「舞踏会」、「空腹の歌」、「寒さの歌」、「神よ怒りを注いで下さい」、「災いあれ」、「シュロモー・ジェルホブスキの歌」、「そのユダヤ人は笑った」などを読み込むことができた。そして、これらの作品についての分析の成果を、「ラジンのレッベの歌」とあわせることで、カツェネルソンが何よりもユダヤ人の「精神的な闘い」を高く評価していることを確認できた。とくに、ドイツ人の処刑台のうえで、歌と祈りを捧げながら死んでいった、実在の敬虔なユダヤ人商人をモデルとした「シュロモー・ジェルホブスキの歌」は、その点できわめて重要だった。 (2)ワルシャワのユダヤ史研究所を訪問することによって、ワルシャワ・ゲットーの文化活動に関する一次資料をあらためて探索することができた。 (3)歴史家リンゲルブルムらが収集していたワルシャワ・ゲットーに関する歴史資料を読むこと、また、イツハク・ツケルマン、ツィヴィア・ルベトキン、ハウカ・ラバンら生存者の回想録を精読することによって、カツェネルソンが若い社会主義シオニストの集団「ドロール」と行っていた文化活動の意義を確認することができた。 (4)以上の成果を踏まえて、カツェネルソンがゲットーで書いたイディッシュ語作品、とりわけ「シュロモー・ジェルホブスキの歌」を軸に、論文「ワルシャワ・ゲットーにおける『闘い』(2)」をまとめることができた。
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