本年度はまず、6月に発足した「京都ユダヤ思想学会」およびその主要メンバーとの協働態勢を築くことから作業を始めた。特にドイツ・近代ユダヤ思想研究者の後藤正英氏、佐藤貴史とは、平成21年度に予定している近代ユダヤ思想のサで共同作業を行うべく打ち合わせを続けている。ユダヤ思想家の研究・紹介・翻訳としては、レオ・シュトラウスのスピノザ論をめぐる考察、シュトラウスの諸論考(マイモニデス論、コーエン論)の翻訳、ローゼンツヴァイクの「新しい思考」の翻訳、レヴィナスの『困難な自由』の翻訳を世に問うことができた。レオ・シュトラウスについてはUTCPでの研究会でコメンテーターを務めた。それに加えて、ベルクソン、レヴィ=ストロース、デリダのようなユダヤ系哲学者たちをめぐる研究も継続したが、ベルクソンについては、アルノー・フランソワ、フレデリック・ケックのような新進気鋭の研究者を招聘して講演・討議を行なうことができ、きわめて有意義であった。デリダについては、立命館大学の「言表研究会」などで発表を行い、他分野の研究者との知的交流を深めることができた。もうひとつ、ボヤーリン兄弟の『ディアウポラの力』、早尾貴紀氏の『ユダヤとイスラエルのあいだ』の書評をきっかけとして、シンポジウム「ディアスポラの力を結集する」に参加、ポール・ギルロイの『ブラック・アトランティック』、スピヴァックの仕事との比較を通じて、「ディアスポラ」の可能性を考えたが、この考察は一種のシステム論としての多島海-システム論構築のきっかけを与えてくれた。
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