研究概要 |
当該研究の目的は,(1)制度的暴力を記憶する文化的装置が構成された時期と領域,その機能を明らかにし,(2)軍事政権下の人権抑圧をめぐる集合的記憶と現在の反ネオリベラリズム運動の言説の関係性を解明することにある。 平成19年度の計画は大きく分けて2点。第1に文書資料・口頭資料の収集と分析,第2に理論研究。第1点について:(1)アルゼンチンでの資料収集とインタヴュー,(2)収集資料の分析と各テーマの問題点の抽出。(1)インタヴュー:失踪者の家族や元失踪者の精神治療を中心に人権擁護活動を展開する精神科医グループ「アルゼンチン心理社会的支援・研究グループ」のダリオ・ラゴス氏,「元拉致・失踪被害者協会」のベロニカ・ヘリア氏,「記憶のための空間研究所」のリカルド・ポッヒオ氏にインタヴュー。人権侵害を指揮した罪を問われた元軍人エクトル・フェブレスの裁判を公聴。(2)資料収集:テレビの映像資料はコピーも視聴も禁止でアクセス不能だったため,代替措置として紙誌の記事収集とドキュメンタリー映画等のDVD収集に変更。「五月広場の母親たち」へのインタヴューは,高齢の「母親」が緊急入院したため果たせず,代替措置として同人権団体が出版した証言集等の収集に変更。インフォーマントからは随時情報をメイルで提供されつつあり,情報のフォローアップに努め,現在の政治・社会状況の定点観測を行いつつ,個別テーマに関する考察を進行中。20年度には成果の一部をラテンアメリカ学会で口頭発表の予定。ホームページを開設し掲載予定である。 第2点の理論研究について:ジョルジョ・アガンベンの<生政治>に関する整理を行ってきている。今後はフーコーとの関連で理解を深め,ドゥルーズの<アフェクトの政治>に関する理論研究を進める予定である。
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