本研究は南米アルゼンチンを中心に、(1)軍政の権威主義体制下での人権侵害に関する記憶の政治と現在の反自由主義運動の関係性を明らかにし、(2)制度的暴力の記憶の構成過程とその社会的機能の解明を目的とした。軍政下での制度的暴力の経験により、南米の社会運動に伝統的に欠如していた人権概念は広く社会に浸透し、社会運動理論それ自体をより豊かなものへと変容させてきた。新たに生まれた社会運動のなかでは、人権概念は当初の定義を超えて、新自由主義経済による絶対的貧困の創出や警察的権力の濫用への批判への基盤を創出してきたといえる。
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