ヴィア・ラティーナ・カタコンベ壁画のいずれも稀な非キリスト教主題の図像的源泉とすでにキリスト教化していた4世紀後半のローマ社会におけるこの図像選択の意味について明らかにするのが最終年度の目的であった。すなわち、旧約聖書主題のみの選択された墓室B(アダムとエヴァ、カインとアベル、アブラハム、ロト、ヤコブ、エフライムとマナセ、ヨセフ、モーセ、エリヤ、バラム、サムソン、アサロン、ザムリとコズビ、トビア、ラハブ)と墓室F(サムソン、リベカ、バラム)、神話主題のみの墓室E(テッルス、アウラエ・ヴェリフィカンテス)と墓室N(ヘラクレス)について考察した。 1.旧約聖書主題:昇天(エリヤ)や神の国への到着の比喩(ヤコブのエジプト到着)といった死後の救済を希求する図像が墓室に相応しい図像として選択される。しかしアダムとエヴァやモーセなどおなじみの主題も他のカタコンベ絵画とは別の図像伝統により描かれる。様式的にはローマ美術の影響の元に成立しているが、「ヤコブの家の救済」と「約束の遵守」といったことさらにユダヤ教的な主題が選択される。これはユダヤ教に改宗した貴族は発注した壁画であると考えられる。 2.異教主題:ヘラクレス主題についても、テッルス主題についても、図像的文学的源泉はアウグストゥス時代に遡る。すなわちローマ建国の英雄ヘラクレスは真め建国者アウグストゥスの予型であり、大地の女神テッルスはアウグストゥスによってもたらされた平和と繁栄の有様を表現したものであることは、アラ・パキスの浮彫が示す通りである。このような思想を背景に、四世紀末に異教が禁止となった時に、異教徒のローマ貴族はアウグストゥス帝時代の規範に立ち戻ろうとし、自己の正統性をここで表現しているのである。
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