本年度は基本的にロシアにおける調査を行った。12月に、モスクワ芸術座博物館文書館において、19世紀末のロシア演劇における日本・朝鮮関係の導入について調査した。19世紀末にはヨーロッパ演劇において広くオリエンタリム、またジャポニズムの影響が見られるが、それはロシア演劇においても散見された。日本をテーマにした作品である『ミカド』が上演されている。モスクワ芸術座博物館文書館においては、この『ミカド』の上演資料をくまなく調査し、検討を加えた。資料には、西欧において上演された『ミカド』の図版資料などが多用されており、ロシアにおける『ミカド』上演は、ヨーロッパの影響の下に行われたことが明らかになった。また、国立芸術図書館において、雑誌を中心とした資料調査を行った。ここでは、数多くの新聞雑誌に日本や朝鮮演劇の記事を検討することができた。セルゲイ・ラドロフの『ノブナガ』上演はこの時期のロシア演劇の日本への傾斜をうかがわせる貴重な資料であった。朝鮮演劇については、数種類の単行本が刊行されている。コンラードの中国、朝鮮、日本文学研究を概観できたのも大きい。また、戦前に朝鮮戯曲のロシア語への翻訳も刊行されている。このソビエト期の朝鮮演劇の翻訳は、ソ連の朝鮮演劇にとって大きな意味を持つ。しかし、極東地方の朝鮮人の中央アジアへの強制移住を背景とする中央アジアの朝鮮演劇への言及はきわめて少なく、来年度以降の調査の必要性がある。これらの研究成果は、来年度ヘルシンキ大学で編集中で来年度に刊行予定の『演劇研究グローバルVSローカル』(仮題)に掲載予定である。また一部の成果は、9月にサンクト・ペテルブルグで行われたシンポジウム「世界文化の中のナショナル・シアター」(9月16日アレクサンドリスンキイ劇場)で口頭発表した。
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