第2年目の本年は、ロシアで2回の調査を行うことができた。まず11月にモスクワの国立芸術図書館において、昨年度調査し切れなかった部分の再調査を行った。また2月にはサンクト・ペテルブルグの国立図書館及び演劇図書館で集中して調査を行うことができた。その結果、ロシアにおける日本演劇の展開過程はほぼ掴めたと考えられる。今世紀の日本演劇のロシア語への翻訳状況、上演状況などはおおよそを知ることができた。朝鮮演劇については、知る限りの範囲では理解できたが、全貌を把握というのにはあまりに翻訳及び上演数が少なすぎる。旧ソ連内ということではカザフスタンでの朝鮮劇場の活動をもって嚆矢とせざるを得ないように思われた。研究成果として、以下に掲げた論文や研究発表などにおいて、ロシア演劇、とりわけメイエルホリドにおける日本演劇の影響については30年代にも十分跡付けることができること、ロシア演劇全体の中でのアジア演劇間の相互影響関係も検討すべきこと、近代のデモクラシーの発展とアジア演劇の近代化のプロセスとは不可分なことなどを主張することができた。また日本と旧ソ連における韓国人の市民権のあり方についての差異を明確にし、その反映として演劇を考えるべきことを主張する論文(英文)を執筆中、ヘルシンキ大学より刊行予定の論集に掲載予定である。
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