本研究は、13世紀後半にパリで成立した初の完訳版仏語聖書である『十三世紀フランス語聖書(Bible francaise du XIIIe siecle)』写本群を取り上げ、聖地ラテン国家滅亡後に西ヨーロッパで発展した彩飾写本に見られる十字軍遠征の影響を明らかにすることを目的とする。 (1)同写本の制作・流通は比較的短期間に留まったものの、編纂地とされるパリを超えて、極めて特異な伝播形態をとった。中でも、十字軍君公の主要な出身地である現在の北フランスを中心とする地域との関わりが注目されるため、この地域由来のラテン語聖書写本との重点的な比較考察を行う。 (2)挿絵図像ならびにテクスト上の関連が深い仏語版『世界年代記(古代史)』ならびにこれに類する年代記写本作品との比較考察。とくに年代記部分に十字軍遠征の記事を書き継いだ作品に注目する。 (3)エルサレム王国で活躍した(北)フランス出身の写本彩飾画家ならびにこの画家との様式的連関の深い画家の手になる、フランス語聖書写本の様式・図像学的考察を行う。
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