ヨーロッパのホスピス先進国における終末医療の現場から、我が国のこれからのアートおよび芸術教育の再定義とあらたな方向付けを試みるための調査を行った。 平成19年9月初旬、約一週間、イタリアのトレヴィーゾにあるホスピス「カーサデイ・ジェルシ」において、アートをとりいれたセラピィー、おもに音楽と美術をとおしての、スタッフをはじめ地域のボランティアによる活動を調査した。市民の善意とボランティアの意志よって自主的に運営されるコンサートの例から、イタリア固有のホスピス精神文化と同時に福祉の啓蒙活動の特色を探ることができた。 おなじ9月中旬からの二週間、英国のウインチェスターにある総合病院の緩和ケア病棟とサウザンプトンにあるホスピス「カウンテス・マウントバッテン・ハウス」(CMH)を訪問し、取材した。両方の緩和ケアを担当するハリエット・ブッシュ医師から現在の英国のホスピスが直面する問題についての意見交換、さらに同医師が受け持つ在宅の末期患者の自宅への同行をみとめられ、その家族や地域の看護士からホスピスケアの実情について聴取した。ウインチェスター在住のプライベートドクターである内科医ニール・ビュキャナン医師からは、看取りの現実について、とくに家族と医師のコミュニケーションの問題につい取材した。また、同地域にある「こどものホスピス」への訪問は、メンタルケアの充実を必要とするホスピスの将来を映し出しており、そしてアートとの関連性とその必然性について一層確信させる機会となった。 今回の調査によって、研究者や医療者そしてアートボランティアとの共同連携による、アートを取り入れた総合的なケアつまりCT(Complementary Therapy)の重要性が、ホスピスをめぐる環境において高まることが予想される。
|