昨年度に引き続き基本文献の収集と19世紀初頭の独立戦争後のギリシャ人画家と、新政府による美術政策についての研究を行った。連携研究者の明治学院大学教授の鈴木杜幾子と同大原まゆみとともに、アテネのベナキ美術館、アテネ国立絵画館で、所蔵作品の調査と研究者F.チガク氏とM.ランブラキ氏と意見交換を行い、貴重な情報と文献の提供を受けた。特にチガク氏からギリシャを旅したヨーロッパ人による絵画的資料の再検討の重要性が指摘され、それに関する資料を多数入手することができた。またギリシャ独立戦争後のギリシャ人による絵画の収集をしているナフプリオンにある国立絵画館分館で、所蔵作品の検証とカポディストリアスについての歴史資料の調査を行った。アテネにおける新古典様式の建造物とその内部壁画の調査を行い、特に旧王宮(現国会議事堂)の大ホールに描かれた独立戦争を主題にした新古典様式の壁画の調査を行った。これと歴史博物館所蔵のマクリヤニス将軍による独立戦争の連続絵図におけるビザンティン・イコンの画像へのこだわりとの比較が重要であることが明かになった。アテネ市に次いで新古典主義建築の建物の多い、シロス島の調査を行った。市庁舎の内部壁画、ルネサンス、バロック、ビザンティン、新古典主義等が混じり合う大規模な教会建築、および個人の邸宅の広間を飾る新古典様式の壁画等を調査し、19世紀のフリーポートであったシロス島における東西の文化の融合の状況についての貴重な資料を入手することができた。当研究の目的であるギリシャ独立後のギリシャ人の民族的アイデンティティ探求とヨーロッパのまなざしを通して近代ギリシャ人が古代ギリシャを再発見する過程を明らかにすることの意義深さがさらに明確になったが、その様相は複雑でいかに整理するかが今後の課題である。
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