平成19年度に開発した日本刀用デジタル画像撮像装置による撮像実験を継続し、スキャン幅及び焦点深度の関係から撮像が困難であった資料に対する装置の改造および撮像方法の改良を行った。改良した装置を使い、鎌倉時代から室町時代の短刀25口の測定を行った。平成20年6月3日、刀剣史研究者を始めとする異分野の研究者による検討会を実施し、測定資料の刃文及び地肌文様について刀剣研究者による肉眼鑑識結果とほぼ整合する、良好なデジタル画像が得られることを確認した。平成20年11月14日、慶応義塾大学博物館学の講義において、日本刀についての基礎知識をほとんど有しない60名の学生に、日本刀の記録方法である伝統的押形、従来のフィルム写真、及び開発中の高精細デジタル画像を同時に提示し、その感想をレポートにして提出させた。その結果、日本刀が具備する地肌文様の表出には高精細デジタル画像が秀でており、初めて日本刀に接する鑑賞者にも、日本刀の持つ美術工芸品的価値を理解させることができることを確かめた。 以上の結果をふまえ、撮像した短刀25口のデジタル画像の一部を、平成20年11月8日から12月21日まで財団法人佐野美術館で実施した、「東海道の名工たち-正宗から村正まで」の企画展で公開した。同展では、従来のフィルム撮影による画像と比較できる形で、ポスター、展示室のパネルを作成した。来館者は始めて公開された高精彩デジタル画像に注目し、日本刀が有する「鍛えの美」を認識させることに成功した。平成21年3月29日、これまでの研究結果と研究課題をまとめ、美術史学会に「日本刀の表面形態に関する画像データーベースの作成-五ヶ国の名工の短刀に見る」というタイトルで研究発表した。 平成21年度は日本刀の研磨が地金の色調に与える影響について研究を進め、これまでの研究結果と今後の課題を報告書にまとめる予定である。
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