平成21年度は短刀用に開発した多色拡散反射撮像装置の撮像条件を整備し、短刀の製作に使用された地金表面の色、映り、沸、および匂いの表出を図った。整備された撮像条件に基づき、鎌倉時代から江戸時代まで各流派43口の短刀の撮像を実施した。撮像結果を金属工学、刀剣史、文化財科学、および刀匠に提示し、それぞれの押形および写真と比較した結果、各流派および時代の特徴が細部にいたるまで表示されていることが確認された。この解析過程で、錆化の進行を防止するためしばしば実施される研磨が地金の色に与える影響について議論された。刀剣研磨は長い伝統に培われつつも、幾つかの流派が生まれ、流派によって研磨に使用される道具および研磨方法が異なる。作刀後、再三に渡り研磨が施された資料については、地金の色や文様が作刀時のものと異なっていた可能性がある。この点を確かめるため、組成が明らかにされているテストピースを準備し、研師を招いて、伝統的な四種類の研磨を実施した。その表面状態を撮像した結果、研磨方法が地金の色に影響を与えることが確かめられた。その理化学的理由の解明は今後の課題とした。 短刀用多色拡散反射撮像装置の撮像原理については、日本鉄鋼協会第158回秋季講演大会(京都大学)において研究報告した。また、43口の撮像データについては、平成21年11月28日から12月23日まで、佐野美術館で開催された「短刀の美」展において一般公開し、併せて企画展図録に掲載した。企画展を観覧した刀剣愛好家の反応は良好で、日本刀研究家の鑑識結果とほぼ同じ質の撮像が得られていることが確かめられた。残された課題は、反りのある太刀の撮像である。この課題の解決には、現有の多色拡散反射撮像装置の改良が不可欠である。この点については上述した研磨同様、今後の研究課題とする。
|