本研究の研究目的は巷間に流布している玄証本及び旧高山寺本の図像について実査を進め、そのデータ集成と整理をはかり、その図像学的な特色を考察することである。本年度は初年度であるので、公的な所蔵機関や個人蔵に分散されている作例について実査を行った。具体的には東京藝術大学美術館所蔵品・東京国立博物館所蔵品・個人蔵となっているものについて写真撮影などを行い、データの集成と整理を進めている。芸大本は文殊菩薩図、不動明王図、北斗曼茶羅図、大元帥明王図などである。東博本については准胝観音図、毘沙門天図である。藝大本の何点かは裏打ちもなく当初の形態をとどめている点で貴重であった。個人蔵については明恵上人画像、宇多法皇図、明恵夢の記断簡などを調査することができた。明恵上人画像は14世紀の作例だが、講讃図として重要であった。宇多法皇図はそれ自体極めて珍しいものである。 いずれも「高山寺」朱印が紙背等に印捺されており、一部函番号なども明確である。また、一部だが油紙における転写図像も実査によって確認することができた。現在、玄証本の墨線から描き癖や線の特徴を捉えるべく画像データにて検討を重ねている。また、旧高山寺本が一般的な図像ではなく、類似図の少なく特徴を持った図像が多い点からその総括的な特色を密教図像全体の中の位置づけをしながら考えつつある。
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