平成20年度は個人蔵、サンフランシスコ・アジア美術館所蔵、東京国立博物館所蔵の玄証本及び旧高山寺本の密教図像についての調査を行った。それぞれ紙幅や折幅なども計測し、原初形態がいかなる状態であったかを考慮しながらの実査であった。また、紙背に残されている経蔵名、番号などの墨書や「高山寺」朱印などにも留意し、図像のみならず伝来の把握にも努めてみた。 実査では、法量の計測やデジタルカメラによる撮影を行い、データを集積している。掛幅装の図像の紙背については、撮影工夫によって、墨書を浮き立たせ、また、図像反転などによって、できるだけ紙背墨書の解読を行うようにしている。また、現在はそれらの図版分類や高山寺で所蔵されていた時の函番号を手がかりに、古目録との照合によって高山寺での旧所蔵などを割り出し中である。研究計画でも記したが、巷間に流布している玄証本及び旧高山寺本は『図像抄』や『覚禅鈔』、『別尊雑記』などに収録されている図像ではなく、今回の調査でもそれ以降に新たに請来されたか、成立したか、いずれにせよ珍しい粉本図像ばかりである。それらの統一性はないが、宋代図像の伝来と図像僧の図像収集の方針を考える上できわめて示唆に富むものばかりであった. このなか、個人蔵の神泉苑請雨経道場図についてはすでに論文発表を行った。そこでは明治時代に巷間に流出し、すでに収集家の手に収まっていたことや図像的な価値について論じてみた。また、サンフランシスコ・アジア美術館本については現在考察を進めている。東京国立博物館本についても特色をみいだし、考察を進めはじめている。
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