研究概要 |
本年度の実査は個人所蔵の旧高山寺本六観音灌頂図及びニューヨーク・メトロポリタン美術館(以下,MMA)収蔵品の玄証本及び旧高山寺本白描図像、ニューヨーク市立図書館(以下,NYPL)所蔵の玄証本及び旧高山寺本、加えて旧東寺本などの白描図像巻子を対象とした。MMA所蔵品については所蔵品目録から当該研究に相当する作例を選択した。NYPL所蔵品についても反町分類書より選択し、ともに調査依頼を行い、快諾、調査の運びとなった。旧高山寺本については海外に流出した作例も多く、実査の必要性からの調査である。MMA所蔵品の実査は掛幅装の場合は紙継幅、折り畳み幅など実査でのみ可能な計測をおこなった。またデジタルカメラの撮影を行い、紙背墨書も撮影した。これらによって高山寺経蔵に所蔵されていた状態の復元がなされるのである。また、旧高山寺本は『別尊雑記』や『覚禅砂』に収録されていない粉本図像も多く、今後はその系統を研究していく基礎的データとなった。それらは平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての密教図像の一特色を示す作例であり、なぜ転写され、高山寺に所蔵されることになったのかは今後の課題である。次いでNYPL所蔵品についてもデジタルカメラの撮影を行い、巻子装については紙幅の計測をおこなった。『図像抄』の一巻と判じられるものもあったが、現在我が国では見ることのできない珍しい図巻も多かった。醍醐寺に伝わった『香薬抄』など図像研究のなかでもまったく研究されることのないものも含まれている。仏菩薩の像容だけが図像研究ではなく、密教事相僧の問で転写された史実は等閑視してはならない作例である。当該研究は本年をもって終了であるが3年間の基礎的研究によって、玄証本及び旧高山寺本の基本データが整ったといえよう。
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