昨年度報告した「日常性」、「商品」、「都市と環境」については、特に美術作品や都市、都市遺跡の見学などを通して、知識の肉付けを行った。今年度の新たな取り組みとして、次の2概念の概略を記す。 (1)「近代」についての研究は、シャルル・ペローを糸口とする。所謂新旧論争の最大の当事者であり、これを主題とする主著を残している。ペローの場合、古代と近代の価値を比較し、近代の優越を主張するというスタンスだったものが、1世紀後のシラーにおいては、自意識の次元に近代の特性を見る自覚に到達する。この近代観は啓蒙主義のイデオロギーと連動し、美学的にはボードレールに受け継がれるとともに、内省的な藝術を育んできた。この潮流はアヴァンギャルドの藝術に結晶するが、その藝術と文明全体の行き詰まりから、ポストモダンの議論を呼び、近代文明への反省が展開している。 (2)「メディア」は、《媒体》を意味する古い単語である。媒体としての理想は、透明となって正確に内容を伝えることである。そう考えられている限り、メディアは重要な概念とはならない。近世に展開した詩画比較論は、媒体の違いが表現世界の違いを生むという事実への開眼であった。しかし、メディアがメディアとしての存在を示し始めたのは、テクノロジーと結びついた新メディア(写真、映画)、マス・メディア以降である。それはコミュニケーションの媒体、通路でありながら、伝播される内容とは異なる独自のメッセージを伝えるからである。そのことを「メディアはメッセージである」として捉えたマクルーハンは、メディアがわれわれの感覚や神経を外化することを指摘している。すなわち、メディアはわれわれの感性を変容させる。マス・メディアを超えるインターネット時代は、更に加えて表現の大衆化の現象を見せている。
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